皆さんご存知の通り、農作業等に用いられる軽トラックのほとんどがMT車であるが、AT車が少ないことには何か理由があるのだろうか。
今回は、この軽トラックとトランスミッションの関係について考えてみたい。
製造コスト
まずはコストの問題が考えられるが、農作業車や社用車として使用すべく軽トラックを求める人にとって余計な機能など一切必要なく、少しでも安く購入することが最大の命題となる。
よって、AT車よりも少ないコストで生産が可能でより安く販売されるMT車の需要が多いことは至極当然なのだ。
実際に軽自動車を販売するメーカーのホームページを見ると、やはりMT車の方がAT車よりも10~20万円ほど安価で販売されていることを確認できる。
走行性能の課題
ATの軽トラックが走行性能に課題を抱えることも指摘しておかなければならない。
軽トラックである以上は積荷によりある程度の負荷がかかった状態での走行を前提にギア比を設定する必要があり、ましてATはMTに比べ動力伝達効率が低下するため余計にトルクが重視されるわけだが、これによりある程度速度を出すとエンジン回転数が激しく上昇してしまうことが大きなデメリットとなる。
3速ATを採用する車が大部分を占める(コストの都合上4速ATの搭載が難しいため)こともあって速度が上がれば上がるほどそれが顕著になり、当然ながら燃費も悪化。
かと言って高速走行を重視すれば低速トルクがスカスカになり、今度は重い荷物を積んだ状態で十分なパフォーマンスを発揮できなくなると言う最悪の結果を招くことに…
一方、MT車であればギアを5速まで設けることが可能で、大きな力が必要な場面では1~2速、普段の走行では4~5速と、状況に応じたギア比の選択により自在にトルクを配分し、スムーズな運転ができることから多くの方がこちらを選択しているのだ。
最近でこそ4速ATを搭載する軽自動車が登場しているものの、未だ5速MTの性能には追い付いていないし、価格が割高になることを考えても実用性が高いとは言い難い状況である。
エンジンブレーキの性能
農作業に用いられる機会が多い軽自動車だが、農村地域には山道をはじめアップダウンが激しい場所が多く、このこともAT車に対してMT車が有利な理由の1つと言える。
と言うのも、前述のトルク配分の問題に加え下り坂ではエンジンブレーキを使用する必要があるため、その効きが弱いAT車は圧倒的に不利なのだ。
“MT車と比べてAT車のエンジンブレーキはおもちゃのようなもの”と言う人がいるほど両者のエンジンブレーキの効き具合には差があるが、下り坂でフットブレーキを多用することは厳禁なだけに、オートマ車が敬遠されることにも納得できるのではないだろうか。
AT車の増加
圧倒的にMT車の数が多い軽自動車であるが、最近ではAT車も増えてきている。
その背景には、AT限定免許しか持っていない運転者(特に女性)でも運転可能なこと、扱いやすさでMT車を上回ることなどがあるようだ。
平地や街中での使用に限定するのであれば大きなトルクや強力なエンジンブレーキを必要とするわけでもないので、こちらもまた頷ける話だと思う。
しかしながら、前述の通り一定の負荷がかかる作業に用いるには課題が多いことも事実であるから、それらの解決次第でさらなる台数の増加もあり得るのではないだろうか。
終わりに
今回の投稿では、軽トラックにMT車が多い理由を考察してきた。
使用用途と実用性を考えればやはりMT車が第一選択となるのが現状だが、AT車の性能の向上にも期待したいところである。
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