災害時には、電気、水道等のライフラインの寸断の他燃料不足も無視できない深刻な問題となる可能性があり、東日本大震災でもガソリンの不足が被災者の生活をより厳しいものにした。
このような事態を防ぐためには常時燃料を蓄えておくことが有効だが、今回はガソリンの正しい保管方法を解説する。
災害と燃料不足
地震等の災害発生時の燃料不足は深刻な問題となり得るが、2011年(平成23年)に発生した東日本大震災でもガソリンの不足が被災者の生活をより厳しいものにしている。
最大の被害地である私の居住地域には震災発生後約1ヶ月の間燃料が届かず、車が津波に流されずに済んだ人々までもが移動手段を無くし、さらにはガソリンの盗難と言う目を疑いたくなる事件まで発生することに…
ようやく一定量の供給が始まった時にはガソリンスタンドの周辺に大渋滞が発生し、ガソリン缶1つ分のガソリンを購入するのに4~5時間の路上待機を強いられるなど、非常に大変な思いをしたことが今でも鮮明に思い出される。
これらの事態は総じて移動のための燃料の確保を巡って起こったものであり、日常より一定のガソリンを保管しておくことの重要性を示すものとも言えるはずだ。
避難不可能
燃料がなければ車が動かず避難が困難になる可能性があるが、先の震災時には私自身が燃料を確保できず、“近くの原発が危ないのですぐに避難しろ”との情報が入ったものの避難を断念せざるを得なかった経験を持つ。
幸いにもその情報が誤報だったために事なきを得たが、本当に避難が必要な事態ともなれば、致命的な問題である。
ガソリンの盗難
目を疑いたくなる光景だったが、東日本大震災時にはガソリンの盗難が多発した。
津波に流された車はおろか、被害を受けずに民家の敷地内にある車でさえ給油口をこじ開けられガソリンを抜かれると言う日常では信じ難い事件が多発した事からも、当時の被災地の混乱ぶりを知ることができる。
ガソリンの保管方法
車を所有する人にとって、いざと言う時のために燃料を保管しておくことは非常に有意義なことであるが、危険物であるガソリンや軽油の保管には一定のリスクがあり、正しい方法を採らないと大変な事故に繋がる可能性をも否定できない。
そのような事態を避けるためにも、以下で正しいガソリンの保管方法を解説する。
容器
ガソリンを入れることができる容器と最大容積容器 | 最大容積(L) | 備考 |
ガソリン携行缶 | 60 | 乗用車で運搬する場合は22L以下 |
ドラム缶 | 250 |
ガソリンや軽油を入れることができるのは消防法で定められた基準を満たす容器のみであり、それ以外の容器を使用することは許されないので注意が必要である。
ここで言う“消防法の基準を満たす容器”とは、具体的にはガソリン携行缶とドラム缶の2つを指すが、店頭やWebで販売されるガソリン缶は性能試験に合格したものであるから、これらを利用すれば問題はない。
一方で特に注意が必要なのがペットボトルや灯油用のポリタンクでガソリンを保管することであり、法律違反であることはもちろんのこと、ガソリンの成分により容器が変形する、気化したガソリンが漏れ火災に発展する等の可能性を否定できないため厳禁である。
指定数量
ガソリンや軽油等の危険物を保管する場合、“指定数量”と言う概念によって様々な制約が課せられる。
指定数量はその危険物の危険の度合いに合わせて決定される数値のことで、指定数量に対してどれくらいの量を保管するか(指定数量の倍数)により、保管方法に制限が加わる仕組みだ。
具体的に説明すると、ガソリンの指定数量は200Lであり、指定数量の倍数が1/5未満、つまり保管するガソリンの容量が40L未満であれば特別な規制はなし。
指定数量の倍数が1/5以上1未満(=保管する量が40L以上200L未満)の場合は、壁、柱、天井が不燃材質でできている場所に保管しなければならず、指定数量の倍数が1以上(=保管する量が200L以上)になると保管場所の壁や柱、床が耐火構造であること等が条件となる。
一般的なガソリン携行缶の容量が約20Lであり、ガソリン缶2つ分(40L)のガソリンがあれば災害時にも十分に重宝することから保管方法に制約が加わるほどの量を確保しておく必要はないだろうが、規制の対象となる場合には確実に対応するようにしよう。
ガソリンの保管方法と指定数量指定数量の倍数 | 保管する量 | 規制 |
1/5未満 | 40L未満 | なし |
1/5以上1未満 | 40L以上200L未満 | 壁、柱、床、天井が不燃材質であること |
1以上 | 200L以上 | 壁、柱、床が耐火構造であること |
注意点
引火の危険性
ガソリンは非常に引火しやすいが、引火点が−40℃と大変低く、静電気の影響も受けやすいため思わぬ形で発火する恐れがあることに加え、空気よりも重いガソリンの蒸気が滞留し、それに火気が引火する可能性もある。
ガソリンの蒸気は目に見えず、ガソリン缶から離れた場所に滞留している可能性もあるため、ライター等の火気の取り扱いには特に注意しなければならない。
このような事態を防ぐためには、ガソリン缶のキャップをしっかりと締めガソリン漏れを防ぐことが最も大切である。
劣化
長期間の保管によりガソリンは劣化する。
ガソリンに含まれる成分が空気中の酸素に触れることで劣化が加速するため、これを防ぐためにもガソリン缶の蓋を確実に閉めることが望ましい。
また、車への給油時にストックしているガソリンを使い、空いたガソリン缶に新たにガソリンを保管する“先入れ先出し”を実践することも常に良質なガソリンを確保するために有効な手段である。
少々面倒に思われるかもしれないが、いざという時に燃料の劣化が原因でエンジンがかからないのでは日々の努力が水泡と帰すわけだから、やはり必要な試みと言えるはずだ。
終わりに
今回はガソリンの保管方法について解説してきたが、危険物であるが故に一定のリスクを伴うものであり、容器や保管場所に制限が加えられることを理解する必要がある。
正しい保管方法を実践して安全を確保し、いざという時に備えよう。
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